釘不使用 木工無垢の棺 間伐材の利用促進、植樹活動 『文の森プロジェクト』を始めました
私が39歳の夏、父親が病気で亡くなりました。享年68歳でした。
この時、葬儀の喪主を務めた私は、火葬場での衝撃的な経験から大きく心を動かされたのです。
父を想い見上げた空に映った煙突から立ち上がる黒い煙。(こんな煙が上がるような遺品は棺に入れていません)そして焼け落ちた釘にまみれた父親の焼骨。(火葬場の方が磁石で釘を拾って下さいますが、茶碗1杯程はあります。また、釘と触れたお骨が赤く変色していました)
この時、木造大工の私は「自分の手で木造無垢の棺を造り送ってあげればよかった」と、後悔の念にかられました。
生前に親孝行らしい事ができず悔やんでいた想いから、現場の端材で小さな屋形船を造りました。
その後、木造無垢で釘不使用の棺を考案し特許を取得。それから製品化に向けた取り組みを始め父親の葬儀から7年が経過した今、完成した作品に「旅立ち」と名付けました。
日頃、私がお客様に造らせて頂く建築作品には心からの気持ちが入ります。もちろん「旅立ち」も同じ気持ちが入っています。木が大好きな私は、この作品が燃えて姿を消してしまう事を思うと何とも言えない悲しい気持ちになりました。そこで、燃やして終わるのではなく、新たな森を生み出す事はできないか?そんな思いから植樹活動などに貢献できる仕組み「文の森プロジェクト」を発足しました。
現在、日本では年間約100万人の方が亡くなっており、国内で流通・使用されている棺の約6割が中国製(工業製品)の棺だそうです。
大切な故人との最期の別れに異物が混じる事で大切な瞬間が汚されている現状を知るべきだと思います。
また、この大量な中国製棺の製造過程におけるCO2排出量は膨大な重量であり、地球環境をも汚してしまっています。
この現状を国産無垢材で造った日本製の棺に変えていける事ができれば、環境にやさしく、持続可能な森林利用の仕組みに貢献できるのではないかと考えました。
地球が壊れ始めている現実に私は言い知れぬ危機感を感じています。100年後の森を守りたい。そして、将来の子供たちが安心して暮らせる未来に繋げたいと切に思っています。
文の森プロジェクト 代表 一級建築士 関口 文弘 |
釘不使用の木工無垢棺を作るために信州の企業と協力
7年前から何度も試作を繰り返した小さな屋形船は、製品化に向けて一級建築士であり木造大工でもある私自身が設計したお住まいのイメージデザインをコンセプトに納まり詳細を含めた設計図書を作成しました。
釘や金物不使用の組立における枠組みフレーム等の主に荷重がかかる接合部分は、ほぞ組や竹釘を使用して補強する事としました。
信州ブランドである木曽桧で制作を考えていた私は、木曽の楯木工製作所さんを探しあて、図面等を持参し尋ねました。私の気持ちは伝わり、快く開発に協力してもらえるお返事を頂き、それから2週間に1度のペースで片道3時間の木曽路を通いました。
この出会いから約3ヶ月後、「旅立ち」の試作品が完成したのです。
本体の組立は木曽郡南木曽町の楯木工製作所さん、内装の信州紬は長野市の織処 丸重さん、障子紙の内山手すき和紙は木島平村のかみすき屋さん。この3社に技術者としてご協力を頂いております。
■本体:木曽檜(南木曽町)
木曽檜という名は、冬の寒さが厳しい木曽谷で育った天然檜だけに与えられるもの。
耐久性に富み、殺菌作用を持ち、古来より神事に愛用され、木肌の美しさと香りは長きに渡り人の心に触れ愛されている。
■内装:信州紬(長野市)
江戸時代中期から日本三代紬のひとつとして愛され代々受け継がれてきた信州紬。
伝統的な柔らかい光沢とその風合いが温かく心を包んでくれる。
■障子紙:内山手すき和紙(木島平村)
雪の中で生まれる内山和紙は透明度が高くしなやかな手触りが特徴。
薬品を使わず深い雪の上にさらし湧き出る清冽な水ですき上げる手作業により
温もりのある味を生み出している。
一級建築士が考えた最後のお住まい『旅立ち』 信州の技術と釘不使用のやさしい棺
一級建築士が設計した最後のお住まい「旅立ち」と名付けたこの棺の意匠は今までの棺にはない船型のデザインであり、釘や金物不使用の組立法は独自開発であります。
本体は木曽桧、内装は信州紬と天然い草の畳、開閉可能なお別れ窓には、長野県花「りんどう」の組子をあしらい手すき和紙を貼りました。(りんどうの花言葉・・・「悲しんでいるあなたを愛する」)
信州が誇る大切な技術と天然素材でできたこの棺は、製造過程における段階でもCO2を排出しない環境にやさしい棺であり、燃焼時に至っても工業製品のような黒い煙が出ないクリーンな製品、釘不使用なのでお骨を汚す心配がない事が特徴です。
また、工業製品とは違った天然木の特徴として、温もりを感じられる事、木の香りにはリフレッシュ・鎮静・殺菌・消臭効果がある事などが挙げられ、最期のお別れの瞬間に癒しの効果が期待できます。
■新たな旅立ちをイメージした船型のオリジナルデザイン(意匠登録第1504793号)
■釘、金物不使用の組立法(特許出願済)
文の森プロジェクト 森林を元気に国産材のリサイクルの構築
新規性として、棺というイメージを払拭するために天然木の美しさや温かさを強調し、一級建築士が設計したお住まいのイメージデザインにこだわりました。船型と従来平型の2種類はそれぞれ、桧・杉等の樹種選択、寸法選択、お別れ窓に貼る手すき和紙のカラー選択を可能にするなどして、男性用・女性用・子供用の多様性に対応できるように工夫した棺のオリジナルセレクトをご提案したいと考えます。
社会提案性としての差別化として、日本の森林を元気にし、国産材を利用するサイクルの構築に資するため、1棟ごとに1本の苗木を植樹する事を目標とした「文の森プロジェクト」を発足しました。
“木を燃やすから木が生まれる”この取組みは長野県観光部の信州ブランド推進室が提唱する「しあわせ信州」プロジェクトに参加しています。